毎朝、一日も休まずに、入所する老人ホームから、長い距離を移動してトンビにえさを撒きにいくおばあさんがいる。
杖をついて歩くのはたいへんだ。
だから、運転のできる友だちのおばあさんが、車を出す。
トンビらは空を旋回して、待っている。
おばあさんふたりの車が山をのぼってくるのを。
パンの耳をたっぷり入れた大袋と、野良猫のごはんを抱えて、おばあさんがやってくるのを。
車の窓は、壊れて開きっぱなし。冷たい朝の風が吹き込んでくる。
後部座席では、風に吹かれて、犬のチロがちんまりと座って淑女のお伴をする。
チロは、何年か前に、この山に捨てられていた。
おばあさんはこれも見捨てなかった。
動物の嫌いなおじいさんたちと闘って、チロの居場所を勝ち取った。
老人ホームの庭の隅に、チロは居場所をつくってもらっている。
公衆トイレに移動して、こんどは猫の世話をする。
捨てられた猫が、森のなかから出てくる。
どんどん出てくる。
みんな、待っていたんだね。
「この林の茂みには、黒猫の親子のお皿。
あのベンチの下には、3本足のシャムの子のお皿。」
おばあさんを見ていたら、
昔、大好きで、そらんじていたロシアの童話がすらすらと出てきたよ。
かささぎおばさん、かささぎおばさん、どこいってたの?
遠いとこ。
ペチカをおこしておかゆを炊いた
この子のおちゃわん、この子のおちゃわん、この子のおちゃわん、
ひとつ、足りない
でもだいじょうぶ
おちゃわん もひとつ
おかゆもたっぷり
ひゅう、みんなおかえり
うちに帰って おはなし しよ
うれしかった きょうのこと
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